• 誰も気付いていないものの
    価値を新しく生み出す

  • ―そもそもアメリカに行かれたのはなぜだったのでしょうか?

    当時僕は高校を辞めたばかりで、いろいろ鬱陶しくて、遠くへ行きたいという気持ちがすごくあったんです。アメリカは色々な雑誌でスケートボードが特集されたりしていて、カルチャーが楽しそうだったから「とにかく行ってみたい」と思っていました。それで旅行会社のチラシを見てとりあえずサンフランシスコに行ったんです。英語も喋れないし、知り合いもいなくても、なんとかなると思っていたんですが、挨拶の仕方もわからないし、街は汚いし、金髪の可愛い人もいない(笑)。最初は人と会うのも面倒で、引きこもっていました。でも生活していかないといけないから、近所のグロッサリーに毎日行って、ネイティブな挨拶を覚えたりして。挨拶をすることで自分の存在が認められると感じたから、まずはどうコミュニケーションを取るか試行錯誤していました。

  • ―アメリカでは何をしていたんですか?

    サンフランシスコには本屋さんがいっぱいあったので、毎日通っていたんですが“本屋さんは本を売るだけじゃなく、情報発信をする場所という役割がある”と気づいたんです。そうした中で古本の売買のことも自分なりに学んでいきました。何かに新しい価値を見つければ、それが自分の活動にも、ビジネスにも、ビジョンにもなる。そう気づいてからは、誰も気付いていないものに価値を見つけようとしていましたね。例えばアパートの下に置かれていたアメリカの電話帳。ゴミを捨てる曜日、地域のルールから、色々なお店の広告までそのエリアの情報が全部書いてあるあのアノニマスなデザインや装丁がカッコよく見えたんですよね。スーパーで捨てられた買い物メモや失敗した証明写真も「額に入れて飾ればアートじゃん」と思っていました。実際そういうものを日本人のカルチャー好きな人に見せるとみんな面白がってくれたんです。他の人にとっては価値がゼロでも、自分でいいと思えるものを自分なりに伝えれば価値が生み出せる。そう考えて毎日何かを常に探していましたね。

  • ―「価値がないと思われるものの価値を新しく作る」という姿勢に開拓と自由を感じます。その経験がCOW BOOKSや編集者という仕事に繋がっているんですね?

    僕はずっと、自分を型にはめずに「僕がやった方が絶対うまくいく」と確信できることを探してやってきただけ。そのために必要なことは、単純に“自分より詳しい人がいないと思える”ことだと考えたんです。だから死ぬほど勉強をして、実際にいろんな経験をして自信を持った上で自由にやる。自分で開拓者だと意識したことはないですね。COW BOOKSにしてみても「僕がやった方がいい古本屋さんを作ることができる」と思ったからやっただけ。今だったらセンスのあるいい本屋さんがいっぱいあるからやらないですけどね。職業は関係ないんです。例えば「僕がやった方がうまくいく」と思えば、パン屋さんをやるかもしれない。文章を書くことも僕のアウトプットの1つなんですが、みんなが言葉にできない「こんな感じ」としか言えないことを言語化するのも新たな価値を生むことであり、大袈裟にいうと発明だと思っています。

  • ―仕事をする上で心がけていることはありますか?

    自分がアウトプットしたものが世の中の人の暮らしに自然と馴染んでもらえたら嬉しいですね。例えばWOOLRICHのバッファローチェックだって、生み出された当時はこんな格子の大きいチェック柄は発明だったかもしれないけど、知らない間に僕らにとってこのチェックはスタンダードになった。新しくはないけど、古くもならない。自分のアウトプットもそういうものを目指したいですね。

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  • 松浦弥太郎 「暮しの手帖」前編集長、ウェブメディア「くらしのきほん」編集長。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表としても活動中。暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。アメリカに憧れ、十代の頃単身渡米した経験を持つ。